「SESでIT業界に入ったけれど、毎日PCを箱から出して設定するだけで、これってエンジニアなの?」
「キッティング案件ばかり振られる。このまま続けていて将来は大丈夫だろうか……」
SES(システムエンジニアリングサービス)の世界で、未経験者や経験の浅い若手が最初に直面する大きな壁、それが「キッティング案件」です。
一見するとIT機器に触れる華やかな仕事に思えるかもしれませんが、現場の実態は「IT土方」とも揶揄されるほど泥臭く、単純作業の繰り返しであることも少なくありません。
結論から言えば、キッティングは「IT業界の入り口」としてはアリですが、「居続ける場所」ではありません。
本記事では、SESのキッティング案件における具体的な仕事内容から、気になる単価相場、そして「キッティング地獄」から脱出して市場価値の高いエンジニアへステップアップするための具体的な戦略を、現場目線で忖度なしに解説します。
SESのキッティング案件とは?仕事内容を現場目線で解説
キッティング(Kitting)とは、簡単に言えば「PCやタブレット、スマートフォンなどのIT機器を、エンドユーザー(社員など)がすぐに使える状態にセットアップする業務」を指します。
「エンジニア」という響きからは、黒い画面にコードを打ち込む姿を想像しがちですが、キッティングの現場はもっとアナログで、体力勝負の世界です。
キッティングの具体的な作業内容(PCセットアップ・初期設定・ソフト導入)
現場によって多少の差はありますが、基本的には以下のルーチン作業が中心となります。
PCの開梱と資産管理ラベルの貼付
数百台、時には数千台単位で届く段ボールをひたすら開封します。
PC本体やACアダプターに、企業の管理番号が記載された「資産シール」を歪みなく丁寧に貼り付けます。
OSのインストール・初期設定(キッティング)
WindowsやmacOSの初期設定(言語、キーボード、ユーザー名作成など)を行います。
ソフトウェアの導入(クローニング)
一台ずつ手動でインストールするのは非効率なため、通常は「マスターイメージ」と呼ばれるひな形をネットワーク経由やUSBから流し込む「クローニング」作業を行います。
Microsoft 365(Office)、ウイルス対策ソフト、社内VPNなどが含まれます。
ネットワーク設定とドメイン参加
固定IPアドレスの割り当てや、社内ネットワーク(Active Directory)への参加設定を行います。
動作確認・梱包・出荷
全てのソフトが正常に起動するか、Wi-Fiは繋がるかを確認していきます。合格した端末を再び箱に戻し、拠点ごとに仕分けて発送します。
キッティング案件の月単価相場(25〜35万円)
気になる報酬面を確認しましょう。キッティング案件の月単価相場は概ね25〜35万円が一般的です。
| 経験・スキル | 月単価目安 | 業務内容 |
|---|---|---|
| 未経験〜1年未満 | 25〜28万円 | マニュアル作業が中心 |
| 1〜2年(リーダー補佐) | 28〜32万円 | 手順書作成・後輩指導含む |
| 2年以上(現場リーダー) | 32〜38万円 | プロジェクト管理・顧客折衝あり |
この単価は、スキルに対する対価というよりは「労働力(作業員)」としての対価です。
ただし、SES企業がクライアントから受け取る金額と、あなたが実際に受け取る給与は別物です。
マージン率(中間搾取率)が高いSES企業では、クライアントが40万円を払っていても、手取りは22〜25万円になるケースもあります。
フリーランスとして直接契約できれば同じキッティング業務でも35〜45万円程度を狙えることもありますが、スキルが低い状態では直接契約に至りにくいのが現実です。
キッティングが発生するプロジェクトの種類(大量入替・拠点展開)
キッティングは恒常的な仕事というより、以下のような「イベント」に合わせて発生します。
企業のPCリプレース(通常4〜5年周期)に合わせて発生。
数千台規模を数ヶ月でさばくため、短期大量の人員が投入されます。
新しい支社の開設や、DX化によるタブレット一斉導入などのタイミングで、現地での設置作業を含めて発生します。
これらのプロジェクトは短期集中型が多く、3〜6ヶ月で終了するケースが一般的です。
継続案件として長期化するケースもありますが、その場合でも作業の単調さは変わりません。
SESでキッティング案件にアサインされる理由
なぜ、あなたは設計や構築ではなく「キッティング」に配属されたのでしょうか。
そこにはSES企業側の都合と、あなたの現在の市場価値が関係しています。
未経験・IT知識が浅いエンジニアが最初に配属される定番案件
多くのSES企業は、未経験者を「まずは現場に慣れさせる」という名目でキッティングに送り込みます。
開発案件や構築案件は、最低でも1年以上の実務経験やプログラミングスキルが求められます。
一方、キッティングは「手順書通りに動ければ、高度な知識は不要」であるため、企業にとって最も売り込みやすい(アサインしやすい)案件なのです。
SES企業の営業力不足で開発案件が取れない
企業側の問題として、営業担当が「低単価な作業案件」しか受注できないケースがあります。
本来、エンジニアのキャリアを考えるなら運用監視やヘルプデスクへ繋げるべきですが、営業力が弱い会社は、手っ取り早く頭数を埋められるキッティング案件で利益を出そうとします。
「多様な案件があります」と採用説明会で謳っていても、実態はキッティング・ヘルプデスクが大多数という企業は少なくありません。
案件のポートフォリオを事前に確認することが重要です。
「IT業界の仕事」と言いつつ実態は作業員だった落とし穴
求人票に「大手企業のインフラサポート」「システム導入支援」と書かれていても、実際に行ってみたら倉庫でひたすら段ボールを運ぶだけだった……
上記のような話はSES業界の「あるある」です。
ITに触れてはいるものの、本質的には「軽作業員」として扱われているのが実態です。
キッティングだけ続けた場合のキャリアリスク
「仕事は簡単だし、定時で帰れるからラクだ」と思っているなら、非常に危険です。
キッティングには、エンジニアとしての死を意味する「キャリアの落とし穴」があります。
ITスキルがほぼ身につかない(エンジニアとしての経験にカウントされにくい)
キッティングのスキルは「手順書を正確にこなす力」です。PCの設定自体は数週間もあれば覚えられます。
しかし、OSのカーネルがどう動いているのか、ネットワークプロトコルがどう制御されているのかといった、「エンジニアとして応用が利く深い知識」は、キッティングのルーチン作業からは身につきません。
| スキル領域 | 習得できるか | コメント |
|---|---|---|
| プログラミング | ×(ほぼ不可) | コードを書く機会がない |
| ネットワーク設計 | △(断片的) | 設定はするが設計はしない |
| サーバー構築 | ×(対象外) | クライアント端末が対象 |
| 障害対応・切り分け | △(限定的) | エスカレーションが多い |
| Active Directory管理 | ○(経験可) | ドメイン参加・GPOの基礎 |
年齢が上がると単価が合わず案件が減る
キッティング市場で求められるのは「若くて、体力があって、安い労働力」です。
30代になってもキッティングしか経験がないと、単価を上げることができず、企業からは「同じ金額なら、より若い人を雇う」と判断され、案件から溢れてしまいます。
履歴書に書いても転職市場で評価されない
転職活動において、3年間のキッティング経験は、エンジニアとしての「3年の実務経験」とはみなされません。
「PCの初期設定ができる人」という評価に留まり、構築や設計といった上位工程の選考では書類落ちする可能性が高くなります。
キッティングから脱出してスキルアップする方法
キッティング案件に置かれている状況は、戦略次第で変えられます。現実的かつ実践的な脱出ルートを4つ解説します。
キッティング業務の中でIT基礎力を身につけるコツ(Active Directory・ネットワーク設定)
ただ作業をこなすのではなく、インフラエンジニアの視点で「なぜこの設定が必要なのか」を深掘りしましょう。
ドメイン参加をする際、ADサーバー側でどう権限管理されているのか調べる。
デフォルトゲートウェイやDNSサーバーの設定値を見て、全体のNW構成を推測する。
GUIだけでなく、コマンドプロンプトやPowerShellで設定を確認する癖をつける。
特にPowerShellスクリプトの作成は、キッティング現場でも即座に活用できる「差別化スキル」です。
「自分は手動じゃなくてスクリプトで一括処理しました」という実績は、次の案件交渉でも使えます。
LPIC・CCNAなどインフラ系資格で次の案件を勝ち取る
キッティング経験者がステップアップするための、費用対効果の高い資格を確認しましょう。
| 資格名 | 難易度 | 次に狙える案件 | 目安費用 |
|---|---|---|---|
| CompTIA A+ | ★☆☆ | ヘルプデスク・PC管理 | 約4〜6万円 |
| LPIC-1 / LinuC-1 | ★★☆ | Linuxサーバー運用 | 約3〜5万円 |
| CCNA | ★★★ | ネットワーク構築・運用 | 約4〜7万円 |
| AZ-900(Azure基礎) | ★☆☆ | クラウド運用・監視 | 約2〜3万円 |
| AZ-104(Azure管理者) | ★★★ | クラウドインフラ構築 | 約4〜6万円 |
特にAzure資格(AZ-900→AZ-104)は、クラウド移行が加速している現在のIT市場で需要が高く、キッティング経験者が「クラウド運用エンジニア」に転換するルートとして有効です。
これらの資格を取得することで、「私はキッティングレベルではなく、運用監視や構築ができる知識がある」という証明になり、会社に案件変更を迫る強力な武器になります。
社内面談で「ヘルプデスク→運用監視→構築」のステップアップ交渉をする
SES企業には定期的な「社内面談」があります。この場を戦略的に使うことが重要です。
ただ「もっといい案件をください」と言っても通じません。以下のように、具体性を持って伝えましょう。
「現在のキッティング業務でActive Directoryの基礎は習得しました。
次はヘルプデスク対応を経験して、最終的にはインフラ構築案件でキャリアを積みたいと考えています。
CCNAの取得を現在進めており、6ヶ月以内に合格予定です。ネットワーク運用案件への打診はいただけますか?」
キッティングからいきなり設計・開発は難しいですが、ユーザーのトラブルを解決するヘルプデスクや、24時間365日の運用監視は、ステップアップの現実的なルートです。
ステップアップの目安ロードマップ
- STEP 1:キッティング → ヘルプデスク(1〜2段階上の技術要求)
- STEP 2:ヘルプデスク → 運用監視(アラート対応・ログ確認)
- STEP 3:運用監視 → インフラ構築(サーバー・ネットワーク設計)
見切りをつけるタイミング|半年〜1年が目安
最終的に重要なのは「見切りをつける勇気」です。
以下の状態が続いている場合、SES企業を変えることを真剣に検討すべきです。
- 6ヶ月〜1年たってもキッティング以外の案件に移れていない
- 社内面談で次の案件の具体的な話が一切出ない
- 在籍エンジニアのほとんどがキッティング・ヘルプデスク案件にいる
- 研修制度がない・スキルアップ支援制度がない
1年経っても「次の案件がない」と言い訳をしてキッティングを続けさせる会社であれば、その会社にあなたのキャリアを守る能力はありません。
その時は、転職を検討すべきサインです。
キッティング案件がない(少ない)SES企業の選び方
もし今の会社が「キッティング専門」のようであれば、より上流の案件を持っているSES企業へ移るのが正解です。
以下のポイントをチェックしてください。
面接で「未経験者の初期配属先」を必ず聞く
SES企業の面接では、必ず以下の質問をしてください。
「未経験・入社1年目のエンジニアは、最初にどのような案件にアサインされることが多いですか?具体的な案件内容を教えてください。」
「多種多様な案件があります」という回答は要注意です。
「ヘルプデスクやキッティングが最初に多いです」と正直に言える企業の方が、むしろ信頼できます。
重要なのは「その後どうなるか」のキャリアパスを具体的に説明できるかどうかです。
研修制度の有無・内容で企業の本気度がわかる
優良なSES企業は、エンジニアのスキルアップを会社の収益に直結するものとして捉えています。
研修投資をしている企業ほど、上流案件に人を送り込む意欲があります。
| 確認ポイント | 良い例 | 悪い例 |
|---|---|---|
| 研修の内容 | プログラミング・インフラ構築・資格取得支援 | ビジネスマナー・コンプライアンスのみ |
| 研修期間 | 2週間〜3ヶ月 | 2〜3日で現場投入 |
| 資格取得サポート | 受験費用全額補助・合格報奨金あり | 支援なし・自己負担 |
| メンター制度 | 担当者が定期的にフォロー | 基本的に放置 |
特に「入社後の1ヶ月でCCNAを取らせる研修がある」という会社は、エンジニアの単価を上げて稼ぐビジネスモデルなので、キャリアアップを支援してくれます。
案件の上流比率・自社開発比率を確認する
最後に、案件ポートフォリオの質を確認しましょう。具体的に聞くべき数字は以下のとおりです。
- 自社開発案件の割合(目安:20%以上あると理想的)
- 上流工程(設計・要件定義)案件の割合
- ヘルプデスク・キッティング案件の割合(30%を超えると要注意)
- 平均月単価(40万円以上が一つの目安)
- エンジニアの平均在籍年数(離職率の裏返し)
これらの数字を正直に開示してくれる企業は、それだけ自社の案件力に自信があると言えます。
「それは答えられない」という企業は、逆説的にキッティング偏重を示唆している可能性があります。
まとめ
SESのキッティング案件について、仕事内容・キャリアリスク・脱出戦略・企業選びの4つの観点から解説しました。最後に要点を整理します。
| テーマ | ポイント |
|---|---|
| 仕事内容 | PC初期設定・ソフト導入・台帳管理。月単価25〜35万円が相場。 |
| アサインされる理由 | SES企業の営業力不足・未経験者の受け皿として構造的に発生する。 |
| キャリアリスク | スキルが身につかず、転職市場で評価されにくい。長期化は禁物。 |
| 脱出戦略 | 業務内で基礎を学び、資格取得→社内交渉→ステップアップ。半年〜1年が目安。 |
| 企業選び | 初期配属先・研修制度・案件比率を面接で必ず確認する。 |
SESのキッティング案件は、ITの世界に触れる「最初の一歩」としては有効ですが、長く留まれば留まるほどエンジニアとしての市場価値は下がっていきます。
今の作業が「ただの肉体労働」になっていると感じるなら、それはあなたのキャリアにとっての警告です。
資格取得や社内交渉を始め、それでも環境が変わらないなら、エンジニアを大切にする企業への転職を視野に入れてください。
「PCを箱から出す人」で終わるか、「システムを創り上げる人」になるか。その分岐点は、今のあなたの行動次第です。

