SESで働くエンジニアにとって「還元率」は年収を左右する重要な指標です。
しかし、求人票には具体的な数字が書かれていなかったり、一見「高還元」で優良なイメージがあっても思わぬ落とし穴があった…という場面も少なくありません。
本記事では、SESの還元率について、基本的な仕組みから相場、良いSES企業・要注意なSES企業の見極め方まで、分かりやすく解説いたします。

【著者プロフィール】
前田 奈央子
エンジニア歴: 7年+
システムエンジニア歴(バックエンド): 3年+
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SESにおける「還元率」とは?
ここでは、SESにおける「還元率」について、あらためてくわしく解説していきます。
SESの還元率についてきちんと理解しておくことで、自分のスキルに対して適切な対価が支払われているか、また条件が適切かどうかを判断することができます
還元率の基本的な仕組み
SESでいう「還元率」とは、クライアントからSES企業(もしくは紹介エージェント)に支払われる売上のうち、どれだけがエンジニア本人の給与として還元されているかを示す数字です。
例えば、SES企業であるA社とクライアントのB社が月100万円の契約単価でSES契約を結んでいたとします。このA社はエンジニアに対し、還元率70% の対価、つまり契約単価の70%で給与を支払っています。この場合、エンジニアには、月70万円の給与が支払われる計算です。

このような還元率という仕組みが発生する要因として、SES企業側のマージン分が必ずかかってしまうことが挙げられます。
特に、営業や管理にかかる人件費や交通費などの費用は必ずあるため、契約単価のすべてをエンジニアに支払うことは難しいのです。
還元率と給与の関係
還元率が高ければ高いほど、同じスキル・単価の案件でもエンジニアの手取りは増加します。
会社の取り分であるマージンの比率が少なくなるため、単純にエンジニアの給与が多くなるからです。
例えば、月単価が100万円の案件で、還元率が70%であれば70万円の取り分、還元率が60%であれば60万円の取り分となります。同じスキルの案件にもかかわらず、還元率によってエンジニアの給与は大きく左右されてしまうのです。

また、還元率が低いSES企業では、高単価案件に参画していても、エンジニアの給与に十分に反映されないこともあります。
このような必要とされるスキルと支払われる単価のギャップに気付くためには、SESの還元率と単価をきちんと理解しておくことが重要です。
SESの還元率の相場
SESの還元率について、SES企業によって数字はさまざまです。
ここでは、一般的な還元率から、高単価とされる還元率まで具体的な数字で3つのパターンを紹介してきます。
一般的な還元率は60〜70%程度
SES業界全体でみると、一般的な還元率は60~70%前後が「平均的、やや良い」水準とされることが多いです。
SES企業側にも、人件費や教育コストを負担しているため、一定のマージンを確保しなければ企業の継続が難しくなります。
具体的には、社会保険料や待期期間中のエンジニアの給与の補填、資格取得補助やキャリア支援にかかる費用などがSES企業側が負担しているものとなります。
そのため、還元率が一般的だからといって、「会社が多くマージンを取っている」とも限りません。
中には、還元率よりも、エンジニアの教育や働きやすさを重視しているSES企業も存在します。
低い場合(40〜50%台)の特徴
還元率で一般的に低いと言われるのは、40~50%台にとどまっているSES企業です。
このような企業の場合、エンジニアにとって不利益となるようなケースが多く、注意が必要となります。
まず、このような低い還元率の場合には、求人や公式HPで公開されていることはなく、説明会や面接でも数字を濁すような返答をされることがあります。
また、還元率が低いことは事業の経営的にかなりギリギリな状態である可能性もあり、「今空いている案件にとりあえず参画してほしい」という形の案件紹介ばかりで案件の選択権がないリスクもあります。
案件の選択権がエンジニアに一切ない場合には、希望しない言語や領域での案件を転々とすることになるため、キャリア形成の観点でもマイナスとなります。
高い場合(80%以上)の特徴
還元率が低い企業もある一方で、還元率が80%以上と非常に高いSES企業も存在します。
このようなSES企業は還元率を積極的に公開していることが多く、採用やブランディングの武器としているケースも見られます。
高還元にできる背景として、SES企業側は固定費を極力抑えたスリムな運営をしているか、もしくは高い営業力で高単価な案件を保有していることなどが挙げられます。
しかし、高還元率のSES企業には、エンジニアの給与が高くなるメリットがある一方で、福利厚生やキャリア支援・サポートが最低限な場合も存在します。
そのため、一概に「高還元=優良SES企業」とは限りません。
還元率が高いSES企業の特徴
一般的に、還元率80%以上であることが、還元率の高いSES企業とされます。しかし、還元率が高いSES企業を求人などで見極めるためにもその特徴を理解しておくことが重要です。
還元率の高いSES企業の特徴としては、主に以下の4つです。
マージン率を公開している
還元率が高いSES企業は、還元率を公開している傾向にあります。
何故なら、高い還元率はエンジニアにとって大きなメリットであり、SES企業側が「どれだけエンジニアのことを考えているか」を示すアピールにもなるからです。
具体的には、求人票に「還元率75%以上」と明確な数値で記述されていたり、面接や説明会などで契約単価と給与の相関性についてきちんと説明してくれるSES企業が挙げられます。
待機中でも給与保証がある
待機中に一定の給与保証があるSES企業も、還元率が高いSES企業の特徴です。
案件の切れ目などで発生してしまう待機期間中は、SES企業側からすると、売上がない状態です。
そのため、売上がない状態にもかかわらず待機中のエンジニアに給与を支払うことができるほど、経営に余裕があると言い換えることもできます。
また、エンジニアのキャリアや生活を継続的に支える仕組みが整っていると評価することもできるでしょう。
そのため、待機期間中も一定の給与保証があるSES企業は、還元率も高い傾向にあります。
案件の選択自由度が高い
案件の選択自由度が高いSES企業も、エンジニアファーストなSES企業であることが多いため、還元率が高い傾向にあります。
エンジニア自身が案件を選択できることで、希望したキャリアを積むことが可能となります。
エンジニアのスキルや市場価値が上がることは、SES企業側はさらに高度なITスキル人材を確保することになり、結果的に会社の利益につながるため、Win-Winの関係になりやすいです。
このように、長期的な利益を理解しているエンジニアファーストなSES企業は、還元率を高くし優秀なエンジニアを他社へ流出させないように工夫していることが多いです。
エンジニア教育やサポート体制が整っている
優良な高還元SES企業は、エンジニア教育やサポート体制も整っていることが多いです。
理由として、エンジニアのスキルアップを支援することは、高単価の案件に参画する人材が増えることとなり、会社の売上も伸びるため、結果として高い還元率を維持しやすくなるからです。
具体的な教育体制として、技術勉強会が開催されたり、オンライン講座の費用の負担を会社がしたり、資格取得支援制度が整っていたりなどが例として挙げられます。
また、メンター制度やキャリア面談を積極的に取り入れることで、キャリアサポートを行うSES企業もあります。
このような支援があるSES企業は、還元率の高さだけでなくエンジニアの長期的なキャリア形成としても大きなメリットとなるでしょう。
還元率が低いSES企業の特徴
還元率が高いSES企業はエンジニアファーストであることが多いですが、反対に、還元率が低いSES企業はエンジニアにとって不利益な特徴を持っている傾向にあります。
還元率が低いSES企業の特徴としては、主に以下の4つです。
マージン率が不透明で公開されない
マージン率・還元率を一切公開しないSES企業は、還元率が低い傾向にあります。
高還元であるSES企業は、還元率を具体的な数字でその高さをアピールすることができますが、低い還元率であるSES企業は還元率でのアピールはできません。
また、低い還元率であることが判明してしまうと、募集に不利であるため、還元率を隠す傾向にあります。
具体的には、面接や説明会で還元率について質問があったとしても、「エンジニア・案件によって異なる」「総合的に判断している」など曖昧な返答で濁されるケースは要注意です。
還元率が不明なまま案件に参画してしまうと、自分の市場価値が正しく把握できず、キャリア形成や年収アップの戦略も立てづらくなってしまいます。
したがって、還元率の透明性はSES企業を選ぶうえでも重要な要素となります。
待機中に給与が発生しないことが多い
還元率が低いSES企業は、待機中に給与が発生しないケースが多いです。
待機中の給与を支払わないSES企業は、売上や利益がそもそも少なく、経営が厳しい可能性があります。
特に「自習扱い」「自宅待機」として無給にするSES企業の多くは、普段の給与も低く、還元率自体も低い傾向にあります。
つまり、待機中のエンジニアの給与は、企業の経営状態からの影響が大きく、余裕のないSES企業は結果的に還元率が低くなりがちです。
案件ガチャが頻繁に起こる
案件の選択権がエンジニアにほぼなく、いわゆる「案件ガチャ」が頻繁に起こるSES企業は、還元率が低い可能性があります。
「案件ガチャ」は、エンジニアのスキルや希望に関係なく、たまたま空いている案件にアサインされてしまう状況を指します。
案件ガチャのような状況が頻繁に起こるSES企業は、営業力が弱く案件数が少なかったり、単価の低い案件ばかりで経営が苦しかったりします。
常に自転車操業のような状態でSES事業を営んでいるため、エンジニアが案件を選べるほど経営的に安定していないことが多いです。
そのため、エンジニアに還元する利益も後回しになりがちになり、結果的に還元率が低いという状況に陥ります。
給与と売上の乖離が大きい
エンジニアの給与とクライアントからの売上の差があまりに大きいSES企業は、還元率が低い特徴です。
SES企業側が売上から高いマージンを取り過ぎていると、エンジニアの取り分が削られる構造にあるため、必然的に還元率は下がることになります。
例えば、月単価70万円の案件に参画していても、給与25万円前後であるようなケースでは、売上と給与の乖離が大きいです。
このような場合、SES企業側も還元率を公開しない、さらには案件の単価をエンジニアに教えないケースもあります。
また、給与と売上の乖離に気付くためには、自分が参画する案件の必要スキルや役割に応じて、単価の相場を把握しておくことも重要です。
還元率だけで判断してはいけない理由
SESの還元率は、優良なSES企業を見極めるために非常に重要な指標となります。
しかし、この還元率の数字だけでSES企業を選ぶのは危険です。
案件数の多さや営業力の強さ、福利厚生やサポート体制が整っているか、など還元率だけでは測れないポイントが存在します。
ここでは、優良なSES企業を選ぶ際に、還元率以外に見るべきポイントについて紹介していきます。
案件数や紹介力の差
案件数が多い、もしくは営業力が強く紹介力のあるSES企業は、エンジニアのキャリア形成に大きなメリットをもたらします。
なぜなら、案件数の多さは選択肢の多さにも直結し、エンジニアの希望条件を叶えやすくすることができるからです。
また、紹介力が強い営業は、エンジニアのキャリアアップの面でも役立ちます。
エンジニアの現在のスキルに合った案件に参画するだけでは、いずれエンジニアの成長は頭打ちになってしまうでしょう。
しかし、紹介力の強い営業がいることで、無理のないステップアップの案件に参画する機会が増えます。
つまり、還元率だけではなく、案件数や営業の紹介力が保証されている点を確認することも、SES企業を選ぶうえで重要なポイントなのです。
福利厚生やサポートの有無
福利厚生やサポートの手厚さも、見逃してはいけないポイントです。
「高還元=福利厚生が充実している」とは限りません。
むしろ、SES還元率の高さを維持するために、SES企業側もコストは最小限に抑えている場合もあり、福利厚生もその対象となっている可能性はゼロではありません。
例えば、住宅手当などの各種手当や資格取得支援のサポートなども、広い意味ではエンジニアに係るコストになります。
そのため、SES企業側の福利厚生やサポートが手厚ければ手厚いほど、会社の支出が増えるため、還元率は低くなってしまう傾向にあります。
還元率が高くないSES企業は、収入面では魅力がないように思えますが、福利厚生やサポートが充実していると、安心して長く働ける環境が整っているため総合的にエンジニアにとってメリットも大きいです。
還元率の数字だけにとらわれず、多角的な視点でSES企業を選ぶことが重要です。
キャリア形成支援とのバランス
還元率だけではなくキャリア形成支援をしてくれるかどうかもSES企業を選ぶうえで重視すべきポイントです。
短期的に高いSES還元率を得たとしても、スキルが伸びないままでは、数年後に市場価値が下がってしまうこともあります。
エンジニアの市場価値を維持・向上するためにも、SES企業側のキャリア支援があるかどうかは非常に重要です。
具体的には、定期的なキャリア面談を行ったり、ロードマップ作成のサポート、PLやPMに挑戦できる案件の提案などが挙げられます。
還元率が仮に高くなかったとしても、「将来的に大きく単価を上げることができそうな有意義な案件」に参画できるかどうかなど、中長期的な視点で企業を選ぶことも大切です。
優良SES企業を見極める方法
優良なSES企業を選ぶには、SESの還元率だけでは判断できないことが分かりました。
ここでは、優良SES企業を見極めるために、具体的にどのような行動をとればよいかについて解説していきます。
面接や説明会で質問すべきこと
面接や説明会では、求人票や企業HPには掲載されない情報を直接聞くことができる機会です。
そのため、以下の3点は特に優先して確認することをおすすめします。
・還元率
・待機中の待遇(主に給与面)
・案件選択の自由度
上記の項目は、いずれもエンジニアの収入やキャリアに直結します。
具体的には、下記のように質問してみるとSES企業側のエンジニアに対してどのような姿勢をとっているかやスタンスが分かります。
「単価とエンジニアの給与の関係について詳しく教えてください」
「待機になった場合、給与やサポートなどはありますか」
「案件はエンジニア側でも選ぶことは可能ですか」
SES企業側が、回答を濁さず、また具体的に数字や仕組み・制度について説明してくれる企業は、透明性の高い運営をしている可能性が高いです。
反対に、曖昧な表現でしか回答が返ってこない場合には、慎重に検討をした方が良いでしょう。
還元率の仕組みを公開しているか確認する
還元率やその仕組みを公開しているかどうかは、SES企業の透明性を測る重要な指標です。
なぜなら、SES還元率を明確に説明できる会社は、エンジニアに払う報酬について自信を持っているからです。
具体的には、企業HPや求人票に「還元率〇%以上」「単価に連動した給与制度」などの記述があるか確認してみましょう。
また、案件の単価についてエンジニアと営業の間で共有されているかどうかも確認が必要です。
仮に公開されている還元率が平均的であっても、サポートや福利厚生の手厚さに自信を持っているSES企業もあります。
そのため、還元率の数字に限らず、還元率について公開しているかどうかは、優良SES企業を見極めるうえで非常に重要なポイントです。
口コミや評判をリサーチする
口コミや評判を確認することで、リアルなエンジニアの声を聞くことができます。
求人や説明会、面接だけでは見えづらい企業の実態について確認できる場合もあります。
例えば、
「書面での説明と実際の還元率が違った」
「思っていたより案件ガチャだった」
「営業担当からのサポートは期待できない」
など、マイナス面や注意点も、事前に気付くこともできるかもしれません。
悪い評判だけではなく、良い評判と悪い評判の両方をチェックし、自分が重視する企業選びのポイントと照らし合わせて判断するとよいでしょう。
営業担当や社員対応の透明性を見る
営業担当や社員の対応がどれだけ誠実で透明性があるかどうかは、優良SES企業かどうかを判断するうえで重要なポイントです。
特に、案件紹介やクライアント対応を行う営業担当とは、実際に案件参画すると長く付き合うことになります。
具体的な確認点としては、以下のような点が挙げられます。
・質問に対して正直に答えてくれているか
・デメリットも隠さずに説明してくれるか
・メールや電話でのレスポンスが早く丁寧かどうか
特に、メリットだけでなくデメリットにも正直に話してくれる営業担当は信頼できます。
こうした営業担当や社員の対応は、SES企業の風土や文化にも通じており、結果としてキャリア支援の質でも影響があるため、きちんと確認しておくと良いでしょう。
まとめ:SESの還元率は60〜70%が目安。高い還元率とサポートの両立が重要
SESの還元率は、エンジニアが自分の市場価値に見合った報酬を得られているかどうかを判断する重要な指標です。
一般的には、還元率は60~70%が相場とされています。しかし、優良なSES企業を見極めるポイントは還元率だけではありません。
待機中でもエンジニアの給与を保証してくれるか、案件選択の自由度はあるのか、キャリア支援や福利厚生が充実しているか、など、還元率だけではない要素も確認することが大切です。
そのため、本記事の内容を参考に、「適正な還元率」と「安心してキャリア形成できるサポート環境」の両方を満たす、優良なSES企業を見極め、エンジニアとして満足できる働き方を実現していきましょう。

【著者プロフィール】
前田 奈央子
エンジニア歴: 7年+
システムエンジニア歴(バックエンド): 3年+
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