SES(システムエンジニアリングサービス)と派遣は、どちらも「自社以外の業務を行う」という点では、一見似たような働き方に思えます。そのため、「SESって派遣と同じでは?」と思っている方もいるかもしれません。しかし実際には、SESと派遣では契約内容や働き方の自由度が大きく異なります。
今回の記事では、SESと派遣の違いについて、またメリット・デメリットやキャリア形成について詳しく解説していきます。自分に合った働き方を選択するための参考にしてみてください。

【著者プロフィール】
前田 奈央子
エンジニア歴: 7年+
システムエンジニア歴(バックエンド): 3年+
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SESと派遣は何が違うのか?
SESと派遣の大きな違いは、契約内容です。両者の違いを解説する前に、まずは改めて「SESとは何か?」について説明していきます。
SESとは、システムエンジニアリングサービス(System Engineering Service)の略称です。
企業がエンジニアリング業務を外部に委託し、技術力を一定期間提供してもらう業務委託契約の一つです。
業務委託契約は、以下の3種類に分類されます。
- 成果物の完成について報酬が発生する「請負契約」
- 法律行為の遂行を他者に任せる「委任契約」
- 法律行為以外の遂行を他者に任せる「準委任契約」
SESの場合には、「準委任契約」としてSES企業とクライアントで締結されていることが多いです。
SESについて概要をおさえた上で、SESと派遣の違いについて、下記の表を中心に説明していきます。
| 項目 | SES | 派遣 |
|---|---|---|
| 契約内容 | 業務委託契約 (特に準委任契約が多い) | 雇用派遣 |
| 指揮命令権 | SES企業側にある | 派遣先側にある |
| 契約年数の制限 | 特に上限なし | 3年 |
上記の図の各項目ごとに詳しく見ていきましょう。
契約内容が異なる
SESは「業務委託契約」であり、派遣は「雇用派遣」であるため、契約内容や契約の根拠となる法律が異なるのです。
SESは多くの場合は民法上の「準委任契約」に該当し、依頼された業務の遂行に対して報酬が支払われます。SESでは、エンジニアはクライアント先に常駐し業務を遂行しますが、マネージャーやリーダーなどの自社の従業員が作業内容の詳細や業務の進め方を決めるため、作業の自由度は比較的高いです。
一方、派遣の場合は、労働者派遣法に基づく契約であり、派遣先の指揮命令のもとでの労務を提供しています。そのため、実際の業務については派遣先の上司が直接指示を出します。
つまり、SESは「業務の遂行を請け負う」立場であり、派遣は「労務を提供する」立場である、という契約内容の違いが両者にはあります。
指揮命令権が異なる
指揮命令権とは、労働者に対して業務に関する指示を出す権利を指します。SESの場合、指揮命令権はSES企業にあり、SES企業の社員の指示のもとで働きます。
一方、派遣の場合、指揮命令権は派遣先企業にあり、派遣先の指示のもとで働きます。
具体的な例で比較してみましょう。
SESでは「A社の業務アプリケーション開発を行う」という業務の遂行に対して、タスクの優先度や進行管理を、SES企業側で判断しエンジニアに指示します。
一方、派遣では「A社の業務アプリケーション開発のチームメンバー」として、派遣先の上司の指示に従うことになります。タスク優先度の決定権も、作業の進め方も派遣先の上司が決めます。
このように、SESと派遣では、指揮命令権がまったく異なります。指揮命令権が異なることで、トラブルが起きた際の責任関係や対応先も変わってくるため、この点はきちんと理解しておくことが重要です。
契約年数の制限が異なる
派遣は同一部署で3年までしか働くことができませんが、SESには同様の制限はありません。
派遣は労働者の保護のために、契約期間について上限が設けられています。労働者派遣法より、「同一部署で最長3年」までしか働くことができないため、3年を超えた場合には部署変更や直接雇用化が求められます。
一方、SESの場合には民法上の準委任契約であるため、期間の制約はありません。案件や常駐先にもよりますが、同じ現場に5年以上いるエンジニアも珍しくはありません。
SESと派遣のメリット・デメリット
SESと派遣は、契約形態や指揮命令権などが異なることが分かりました。ここでは、両者の違いを理解した上で、エンジニアにとってのそれぞれのメリット・デメリットを比較します。
SESのメリット・デメリット
SESで働くメリット・デメリットについて記載します。特に派遣で働く場合と比較した場合のメリット・デメリットを中心に紹介していきます。
SESの一番のメリットは、スキルを磨きやすい環境にあることです。常駐先にはSES企業の社員がいるため、スキルが多少足りなくてもサポートを受けて案件に参画することもあります。また、派遣と違って指揮命令権があるため、リーダー経験を積む機会もある可能性が高いです。
その反面、SES企業によっては案件に求められるスキルのばらつきや待機期間があるなど安定性に欠けるというデメリットがあります。
SESで働くデメリットを最小限にするためには、エンジニアファーストなSES企業を選択することがカギになるでしょう。
派遣のメリット・デメリット
派遣で働くメリット・デメリットについて記載します。特にSESで働く場合と比較した場合のメリット・デメリットを中心に紹介していきます。
派遣の一番のメリットは、安定して働ける環境が保証されていることです。
派遣は契約内容や条件の提示が明確であることが法律で義務付けられているため、就業後に「事前に聞いていた業務内容や残業時間が違う!」というトラブルは滅多にありません。そのため、残業時間や負担の少ない業務を選択することで、家族との時間や副業の活動などとの両立を図ることも可能です。
メリットがある反面、スキル維持はできてもスキルを向上させる機会に恵まれなかったり、工程が限られているなどのキャリアの停滞が起こるリスクもあります。
キャリア形成の違い
エンジニアは、資格よりも「どんな案件で活躍したか?」「どの分野・領域に何年経験しているのか?」といった経験重視の傾向にあります。そのため、働き方を選択する際には、短期的なメリットだけでなく長期的なキャリアパスを考慮に入れることが重要です。ここでは、SESと派遣のキャリア形成の違いについて解説していきます。
SESは多様な現場で経験を積める
SESはさまざまな業界・工程・ツールに触れる機会が多く、多様な現場で経験を積めます。
新規開発だけでなく、インフラ構築や運用、クラウド移行など、幅広く携わることが可能です。そのため、まだキャリアパスに悩んでいるエンジニアにとって、自分の得意分野を見つけるのに最適な環境ともいえます。複数の案件を経験した後には、「AWSの知見が深まった」「自分は上流工程より下流工程の方が向いている」など、エンジニアとしてのキャリアパスが明確になることでしょう。
将来的に高度なIT人材やフリーランスを目指すのであれば、SESでの経験は大きな武器となり得ます。
派遣は条件次第で安定した働き方ができる
派遣の場合、勤務条件や残業時間が契約で明白であるため、条件次第で安定した働き方が可能です。例えば、残業時間が少ない案件を選び、家庭や学業・副業との両立をしながら働くこともできます。
また、基本的には未経験の業種や業務にあたることは少ないため、挑戦しがいはないもののストレスや困難も比較的感じることなく穏やかに働けます。
家庭の事情などで勉強する時間が確保できないエンジニアでも、生活基盤を整えながらキャリアを維持することができます。
将来フリーランスや正社員に戻る場合の影響
将来フリーランスとして独立する、もしくは正社員に戻る場合の影響について説明していきます。結論として、SESと派遣はどちらの場合も大きな不利はありません。
将来フリーランスになる場合
SESの場合、数年単位もしくは複数の案件を経験したエンジニアであれば、フリーランスで案件に困ることは早々ありません。
一方、派遣の場合でも、そのスキルに応じてフリーランスとして類似の案件に参画することは十分可能です。仮にエンジニア自身に営業力がなかった場合でも、近年ではフリーランス向けのエージェントが豊富であるため、営業が不得意でも案件の獲得に困らないことが多いでしょう。
会社員に戻る場合
SESの場合、SESで培った経験は転職時も活かすことが可能です。特に、同じ業界の知識を持つエンジニアは、応募先企業からの評価も高いことが多いです。
一方派遣の場合は、同じ業界や業種で積み上げてきた期間が転職時でも評価されることでしょう。「金融システム案件を複数経験している」、「AWSでのインフラ構築から運用まで経験している」など、特殊な業界や最新技術を極めているエンジニアは重宝されます。
つまり、SESで働く場合も派遣で働く場合でも、地道にキャリアを積み重ねていればフリーランスとしての道でも、再度会社員として転職する道でも選択時に悪影響があることは少ないといえます。
SESと派遣、どちらが向いている?
ここでは、SESと派遣の働き方、どちらが向いているかについて解説していきます。自身が働いている姿を想像し、どちらが自分にあっているかを確認してみてください。
スキルを磨きたい人はSES
スキルを磨きたい、さまざまな経験をしたいという人はSESが向いています。
特にまだ得意分野や極めたい領域・キャリアパスが定まっていないエンジニアには、未経験の業種や業界でも挑戦できる機会が多いSESがおすすめです。
また、成長志向が強い人、フルスタックエンジニアを目指す人も、SESで働くことでさまざまな経験や知識を吸収することができるでしょう。
安定志向・働きやすさ重視の人は派遣
収入アップや成長よりも安定して働きたい人は派遣に向いています。
ワークライフバランスを重視する人が増えている近年では、「キャリアアップよりもキャリアを維持したい」という考え方の人もいます。そのため、働きやすさを何よりも重視するのであれば、業務内容や残業時間について法律でしっかりと守られている派遣が向いているでしょう。
既に経験した業界・業務内容で安定して働きたい人は派遣が向いているでしょう。
迷ったときに確認すべきチェックポイント
SESに向いている人、派遣に向いている人がいれば、どちらも当てはまってしまい迷ってしまう人もいるかもしれません。以下では、迷ったときに確認すべきチェックポイントを紹介いたします。
□自分の得意分野がまだわからない
□さまざまな業界や工程、技術を経験してみたい
□将来リーダーやPMなど高度なIT人材になりたい
上記の項目が多い場合は、SESでの働き方が向いている可能性が高いです。
□「残業時間が少ない」「仕事が多すぎない」など、働きやすさが一番大事
□エンジニアとしてやりたい仕事や得意分野がある
□今まで経験した仕事の延長線上で仕事をしていきたい
上記の項目が多い場合は、派遣での働き方が向いている可能性が高いです。
まとめ:SESと派遣の違いを理解して自分に合う働き方を選ぼう
SESと派遣は、一見似ていますが、契約形態や指揮命令権、働き方の自由さなどが異なっています。また、SESはスキルを伸ばしやすいメリットがあり、派遣は安定して働きやすいメリットがあります。
「SESと派遣のどっちがいいか?」その疑問はエンジニアによって答えは異なります。両者の違いやメリット・デメリットを理解し、エンジニアが“どんな働き方をしたいか”で選択することが大切です。自分のキャリアや生活スタイルを基準に、最適な選択をしていきましょう。

【著者プロフィール】
前田 奈央子
エンジニア歴: 7年+
システムエンジニア歴(バックエンド): 3年+
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